ブローバイガスとポジティブ クランクケース ベンチレーション (PCV)

 エンジン内にはピストン上部の燃焼室から漏れ出たブローバイガスがあります。このガスをインテークマニホールド(インマニ)の負圧で積極的(ポジティブ Positive)に吸い出して燃やして処理するのが、PCV(Positive Crankcase Ventiration ポジティブ クランクケース ベンチレーション:積極的クランクケース換気)です。

 エンジンは下から順にオイルパン、エンジンブロック、シリンダーヘッド、ロッカーカバーと4つに分解できます。
オイルパンはエンジン内を巡ってきたエンジンオイルが溜まるところ、
エンジンブロックはシリンダーやピストンやクランクシャフトがあるところ、
シリンダーヘッドはエンジンブロック(シリンダー)を蓋(ふた)するもので吸排気バルブやバルブを上下させるカムシャフトがあるところ(OHC/DOHCの場合)もしくはプッシュロッドの上下動でバルブ開閉するためのロッカーアームがあるところ(OHVの場合)、
ロッカーカバーはシリンダーヘッドを蓋するものです。

 このうち、エンジンブロックのピストン下の空間はクランクシャフトがあるところでクランクケースと呼ばれます。
 このクランクケースは潤滑のためにエンジンオイル飛沫が飛び交っているところに、シリンダーとピストン(ピストンリング)の隙間から「ブローバイガス」が漏れ出てきます。
 このブローバイガスは、燃焼室から漏れてくるので排気ガスのように思えるかもしれませんが、そうでもありません。
かなりの未燃焼の混合気(ガソリンと空気がまざったガス)が含まれているのです。
 その理由を図にしてみました。
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 点火プラグのスパークで混合気に点火すると、プラグを中心に火焔が拡がりながら燃焼ガスが膨張します。燃焼室の隅にある混合気は、まだ火焔伝播していない間に燃焼ガス膨張による強い圧力で押される瞬間があります。
このとき、混合気がブローバイガスとしてクランクケースに漏れ出ます。
 上図の後、火焔は燃焼室隅の混合気にも伝播して燃焼します。このとき、排気ガスがブローバイガスとしてクランクケースに漏れ出ます。
 点火プラグから始まった混合気の燃焼は混合気が全て酸化(燃焼)すれば理想的なのですが、冷却されているシリンダー壁の近傍では熱を奪われて不完全燃焼に終わるものがあります。これは煤となります。
 このようにブローバイガスは、未燃焼の混合気(ガソリンを含んだ空気)、排気ガス、不完全燃焼の煤が混ざったガスなのです

 クランクケース内に漏れ出たブローバイガスは、エンジン潤滑で飛び交っているオイル飛沫と混ざります。
クランクケースに充満するブローバイガスはオイルパンのオイルに触れてオイルを汚します。ブローバイガスは、ガスに含んでいるガソリンや煤などでエンジンオイルを汚す「エンジンオイルの汚染源」です。
 できれば速やかにエンジン外へ出すことが望ましいわけで、これを実現するのが クランクケースベンチレーション(クランクケース換気)であり、TB48DEでも採用されているポピュラーな方式がPCVなのです。

 サファリの新型車解説書ではPCVを「ブローバイガス還元装置」として説明しています。

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<画像をクリックすると拡大表示します>
 
 新型車解説書の図にあるように、PCVには2本の経路があります。
 ひとつはエアークリーナーとスロットルバルブを繋ぐエアーダクト(サクションパイプとも呼びます)からエンジン内へ繋がる経路(ここでは1次側と呼びます)です。
 もうひとつはスロットルバルブに遮られて負圧が発生しているインテークマニホールド(インマニとかサージタンクとも呼びます)にエンジンから繋がる経路(ここでは2次側と呼びます)です。

 PCVの動作概要は次の通りです。

 スロットルバルブが閉じ気味の低負荷時(アイドリング時/エンジンブレーキ時を含みます)は、燃やしている燃料も少なく発生するブローバイガスも少ないうえに、インマニの負圧が強いので2次側からエンジン内のブローバイガスを吸い出し、1次側から空気(新気)をエンジン内へ導きます
 スロットルバルブが開いている高負荷時は、燃料をたくさん燃やして燃焼室圧力も高いのでブローバイガス量が多いにもかかわらずインマニの負圧は強くないので2次側のみではブローバイガスを吸いだしきれなくなり、1次側からもブローバイガスが出てきます

 高負荷でブローバイガスが1次側のサクションパイプ接続部から大量に噴き出すと、スロットルバルブを汚します。
状況によってはエアークリーナーまで来るのでエアーフローセンサーやエアーエレメントを汚します。
 TB48DEもそうですが、最近のガソリンエンジンは触媒でNOxを分解するので、燃焼温度を下げてNOxを低減させるために排気ガスをインマニに循環させるEGRがありません。ですので、エアークリーナーやスロットルバルブを煤やオイルで汚す汚染源は、このブローバイガスなのです。

 ブローバイガスに関係する装備のオイルキャッチタンクについて、ここで触れておきます。

 ブローバイガスの特にオイル分を分離させるのが「オイルキャッチタンク」です。このタンクは、オイルを含んだブローバイガスを一旦タンク内に入れ、タンクの上部から出すことでオイル分を分離します。ブローバイガスに含まれるオイルを完全に分離することは難しいですが、無いよりは遥かにオイルを分離します。なお、溜まったオイルは定期的にタンク外へ排除する必要があります。

 このオイルキャッチタンクはPCVの1次側に装備するものだといわれますが、その理由を考えてみます。

 TB48DEはNA(Naturally-Aspirated : ナチュラリィ アスピレーテッド=自然吸気)エンジンなので、スロットルバルブ前のサクションパイプとスロットルバルブ後のインマニの圧力の関係はスロットルバルブの抵抗がある関係で

  NAエンジンの場合
  サクションパイプの圧力 ≧ インマニの圧力


となります。

 1次側が繋がるサクションパイプと2次側が繋がるインマニの圧力差は、スロットルバルブの開度が大きく関係します。スロットルバルブが閉じていればインマニの負圧は強くなるので圧力差は大きくなります。
 NAエンジンでは、負圧が強いインマニに繋がる2次側のほうが、サクションパイプに繋がる1次側よりも多くブローバイガスをエンジンから吸い出そうとします。

 ところで、ターボやスーパーチャージャーなどの過給器が装備されているエンジンではどうでしょうか。
過給が効く高負荷時は過給器がインマニに空気を押し込みますから、

 過給器付きエンジンで高負荷の場合
  サクションパイプの圧力 < インマニの圧力


 となります。

 PCVの2次側には インマニ → エンジン への逆流を防止するPCVバルブがあります。インマニ圧力が高い高負荷時はPCV2次側はブローバイガスを吸い出しません。このため、高負荷時に発生したブローバイガスはサクションパイプに繋がる1次側に出てきます。
 ですので、過給器付きエンジンではオイルキャッチタンクを1次側に装備するのが定石です。
 過給器付きエンジン高負荷時はエンジン内は大量のブローバイガスで満たされてゆきます。ブローバイガスはエンジンオイルの汚染源ですから、高負荷状態が続くとオイルはどんどん汚れてゆきます。
 過給器付きエンジンのオイル交換頻度が短いのは、エンジンオイルが汚れ易いからなのです。

 TB48DEの場合は(燃費が”凄い”こともあって)アクセルを全開にして走行することは稀です(爆)。
インマニに強い負圧が発生してブローバイガスがPCV1次側には出ていない場合、サクションパイプからエンジンへエアークリーナーを経たきれいな空気(新気)が吸い込まれます。このため、過給器付きエンジンと比較すると、NAエンジンはエンジンオイルの汚れが少なく済みますから、エンジンオイルの交換頻度は長くできます。

 さて、NAエンジンの場合、オイルキャッチタンクはどこに装備したらよいかに話を進めます。

 ブローバイガスのオイル分を分離する目的でオイルキャッチタンクを装備するならば、NAエンジンの場合は2次側に装備したほうが効果的です。ただ、2次側に装備する場合、負圧が0気圧近くなるインマニに接続するので、負圧に耐える構造のタンクやホースでないと、大気圧でオイルキャッチタンクやホースが潰されます ので注意が必要です。
 サーキット走行などでエンジンブロー時のオイル飛散を防ぐ目的ならば、エンジン過負荷時にブローバイガスが噴出する1次側に大容量のオイルキャッチタンクを装備する必要があります。
 公道での利用を考えるならPCV2次側に、サーキットでの利用を考えるならPCV1次側に、万全を期したいのであれば1次側と2次側の両方にオイルキャッチタンクを装備、ということになります。

 そろそろオイルキャッチタンクの話題はこのあたりで終えて、TB48DEのPCVを画像でご紹介したいと思います。

TB48DEエンジンは過給器のないNAエンジンなので、PCVはとてもシンプルです。
(オイルキャッチタンクは装備していませんので、悪しからずご了承ください)

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 上記の画像に解説をつけたものがこちらです。

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 全体像の画像では1次側のエンジン側(ロッカーカバー)の接続箇所が見えませんので、先日の点火プラグ交換時に撮影した画像でご紹介します。

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 ご覧のようにエンジン上部ロッカーカバー上に筒が立っています。ここがPCV1次側のエンジン接続部です。

 なお、2次側のアップ画像がこちらです。
ロッカーカバーの出口にPCVバルブという逆流防止弁があり、あとはインマニに繋がっているだけです。

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ロッカーカバーについているPCVバルブの画像です。太いほうがエンジン側で細いほうがインマニ側です。

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 先ほどPCVバルブを「逆流防止弁」と紹介しましたが、実はPCVバルブには他にも機能があります。

それは、負圧が強いときにはブローバイガスの流量を絞る機能です。
 アイドリング時やエンジンブレーキ時は負圧が真空に近くなり、エンジン内との気圧差は1気圧近くになります。
このときにPCVバルブがスカスカだとスロットルバルブを迂回(バイパス)してインマニへ流れる「オイルまみれの空気」が多すぎてしまいますから、負圧が強いときはバルブの隙間が細くなるようにして流量を絞るようになっています。
 このPCVバルブの機能を説明した図が、Y61 Patrol Service Manual (輸出用サファリの英語版整備マニュアル)に出ていました。脇に日本語訳などを書き込みました。

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 実際にPCVバルブを息で動作確認できるかを試してみました。逆流防止は確認できましたが、負圧が強いときに流量を絞る機能は確認できませんでした。私の肺活量ではエンジン内 vs. インマニ 圧力差 「 760 mmHg 」 相当の状況を作れなかったようです。ご参考までに。

 このPCVバルブを含むPCVには、電子制御モノは付いていません。基本的に樹脂製のPCVバルブとゴムホースだけで構成されています。
 経年劣化でホースに穴が開くと「二次エアー(エアーフローメーターを通らないで吸入される空気)」を吸い込んだりしますし、PCVバルブが不調になると相応のトラブルが出ます。
 
 PCVバルブはグロメットというゴムでエンジンロッカーカバーに付いています。このグロメットは再使用禁止のパーツです。経年劣化でゴムが潰れて変形したりゴムの弾力がなくなったりしています。PCVバルブを外した場合は、ディーラーや日産部販でグロメットを調達して交換してください。グロメットは数百円程度です。(私が購入したときは200円でした)

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 なお、PCVバルブのグロメットを脱着する際はグロメットをエンジン内に押し込まないように十分に注意して作業してください
 ちょっとした不注意でエンジン内へ飛び込みそうになります。もし、グロメットがエンジン内に飛び込んでしまうと、場合によってはロッカーカバーを外さないと取れない可能性があります。
 ロッカーカバーを外すためには、TB48DEではインテークマニホールドコレクターアッパーも外す必要がありますから、これのガスケットも必要ですし、ロッカーカバーのガスケットも必要になります。また、ロッカーカバーが付くシリンダーヘッドはアルミ合金製ですので、ボルトを適正なトルクで均等に締め付けるには、トルクレンチが必要です。
 ある意味とても面倒なことになります。

 私がDIYでPCVバルブ交換を行ったとき、古いグロメットを外そうとマイナスドライバーでグロメットをこじったらグロメットが千切れかけてエンジン内に入りそうになりました。、新しいグロメットを付けようとしたときはグロメットをエンジン内に押し込みそうになり、冷や汗が出ました。作業する際は、十分にお気をつけください。

 PCVのホースはホースクランプをプライヤーでつまんで緩めてずらせば、簡単に外せます。(PCVバルブを抜かないように注意)
たまに外して清掃するとPCVの様子が点検できると思います。

 余談ですが、TB48DEのサクションパイプは、ゴム製でガスケットなどはありませんから、工具があれば脱着できます。ホースクランプを緩めてサクションパイプについているレゾネーターもまとめて外すと楽です。サクションパイプを外すと、スロットルチャンバーのバルブの汚れ具合を直接点検することができます。
 いろいろと調べたところ、電子制御スロットルバルブを清掃する場合は、キャブクリーナーなどを直接吹きかけて洗浄するのは好ましくないようです。バルブの軸にグリスがあるのをキャブクリーナーが洗い流してしまい、不具合の原因になるようなのです。
 電子制御バルブを清掃する場合は、ケバが出ないウエスなどにキャブクリーナーを含ませて拭き取るような方法が好ましいようです。

この記事へのコメント

くみちょう
2013年05月31日 14:18
ブローバイのお話、キャッチタンクの補てん、まことに素晴らしい技術資料ですね。
中学の技術家庭の教科書に載せたいぐらいです。

オイルキャッチタンク、以前はよく自作などが改造雑誌を賑わしておりましたね。
オイル1L缶やらホールトマト缶やら日本らしく茶筒やら、、、(笑)。
今では割と安価に出来栄えのよいキャッチタンクが売ってるので、そんなに労せず設置できます。
しかしうちのTBは健全なのかガスが薄いのか、あまりブローバイが汚れてる気配がないのでキャッチタンクも不要な感じです。
2013年05月31日 14:43
くみちょうさん、コメントありがとうございます。
お褒めのお言葉、励みになります!

TB48DEもブローバイはあまり汚れないですね。シビリアンなどのバスと比べると軽量軽負荷のサファリを転がしているのは、大排気量ガソリンエンジンTBにとっては楽な仕事なのでしょう。
 燃費が気になってアクセルが踏めませんから(爆)、スロットルはほぼ閉じ気味で運行していますので、ブローバイは2次側から吸われて1次側は専ら新気導入に勤しんでいることと思います。
 先日、点火プラグ交換でサージタンク(インテークマニホールドコレクタアッパー)を開けましたが、とくにオイルまみれでもなかったので、TB48もキャッチタンクはとくに付ける必要を感じませんでした。
くろちゃん
2013年05月31日 16:22
流石という濃厚な記事でありました♪ 確かにジョンがTDに気合いを入れるとブローバイが増えインマニの滲みは酷くなりました。これはガスケットの密閉度も有りますが感覚的に油ギッシュな吸入気という気がします。キャッチタンクを付けるとあっという間にエンジンオイルがなくなったりして(笑
2013年05月31日 21:49
くろちゃんさん、コメントありがとうございます。
励みになるお言葉、ありがとうございます。
ブローバイガスの発生量は燃焼室内の圧力が高いのと相関がありますから、このガスが増えたのはトルクが出ている証左ですね。
 油ギッシュな吸入気をエンジンが吸っていると白い煙が出ているはずなのですが、ブルーインパルス並みに出ていなければ大したことはないですよ。というか、オイルがクランクケースから脱出する量は、キャッチタンクの有無とは関係ないですよ(苦笑)
 煙といえば、免許を取った頃に乗っていた昭和52年式4M-U搭載車は、オイル上がりの症状が出てしまいました。アクセルを踏み込むとF-86F BI機バリに白煙が出て後続車をケムにまく、凄いクルマになってしまい、廃車してしまいました。コラムシフトATの6人乗りセダンでとても気に入っていたのですが。。

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  • スロットルバルブの掃除

    Excerpt: メーデーな本日、5月らしい爽やかな気候になり、会社もお休みなこともあって、サファリをメンテしました。 ただ、思った以上に暑いので、こちらの作業をしたら引きこもってしまいました(笑) Weblog: 拙宅の日産サファリに関する雑記帳(サファリブログ) racked: 2015-05-01 17:44